挨拶チュー毒

    Natsumi Narasaki

    Natsumi Narasaki

    春は、出会いと別れの季節。
    先日、初めて会ったオーストラリア出身の女の子に、挨拶のほっぺチューをしたら、「積極的にキスする日本の女性に初めて会った!」と驚かれました。「こちらがキスすると笑顔で受け入れてくれるけれど、自分からはしない」女性ばかりだったそうです。もっとも、彼女が日本に滞在したことがあるのは1週間だけ。出会った日本女性だって、決して多くはないのですが。

    でも、そうなんです。私にとって今や、挨拶チューは、人とのコミュニケーションに欠かせないものなのです。無意識にしてしまう。何か不可抗力が働いて挨拶チューができないと、どうもその後ムズムズして、やり残したことがあるような不快な気持ちにさえなるんです。さすがに日本人が相手だと、なんとかこのムズムズを抑えることができるのですが、それでも久しぶりに一時帰国なぞすると、かなり不満が溜まります。軽犯罪法違反で捕まらないようにしないと・・・。

    パリにいた頃は、仕事では握手の挨拶が普通でしたが、プライベートでは両ほほに2回ずつ、合計4回のチューでした。正確には、舌と唇で音を立てながら軽く触れる「チュッ」が4回。人によっては2回だったり、3回だったり様々でしたが、私の周辺はおおむね4回が主流でした。頬へのチューがかなり口に近づいて来ていたら要注意です。「あわよくば」と狙われている証拠ですんで、相手次第では、あくまで「不可抗力」に見える形での抵抗を示す必要があります。

    スイス人の男の子の話です。スイスには、チーズフォンデュという、大勢で鍋をつついて食べる伝統料理があります。パンや野菜を串に刺して、これを、鍋の中で沸騰するチーズにつけて食べる、というものなのですが、幼い頃はなかなか上手に食べられないそうで、パンや野菜を鍋の中に落っことしてしまうことがしばしばだとか。そこで母親は「1つ落としたら1つママにチューをするのよ」と躾けるそうです。小さい男の子は、チューが嫌なので、必死に上手に食べようとします。でも、ある年齢を過ぎると、今度はチューをたくさんしたくて、わざと落とすようになるんだそうです。もちろん、食卓に女友達がいれば、ということになりますが。

    モロッコでは、基本的には両頬に1回ずつ、合計2回。でも、それじゃあ気持ちがおさまらない、ということであれば、2回目の方の頬に、3回目、4回目のチューを続けます。同性であればそれこそ、「ブチューッ」くらい濃厚なものをしたって、誤解されることなく、喜ばれます。セネガルでは、握手した手をぶんぶん振りながら、5分から10分、延々と「家族は元気か」「元気」「友達は元気か」「元気元気」といった挨拶を繰り返します。

    さて、ここモントリオールは、なにせ人種がモザイク模様のごとく入り混じっている街ですんで、挨拶一つとっても人それぞれです。私はこれまでの習慣から、ほっぺチューを2回しています。なんとなく気持ちの収まりが悪いときは、それにアングロサクソン系文化のハグ(ギューッと抱きしめる)を付け加えます。今のところ、する方も満足、される方にも好評です(?!)。

    けれど、時折、日本式の美しい「一礼」を見ると、素晴らしい、と見とれてしまいます。実際には肌が触れ合わなくても、感謝や敬愛の気持ちが、空気中にゆったりと押し出される厳かな儀式のようで、受け取る方も、恭しく押し頂くように返礼します。「挨拶チュー」とはまた違ったレベルで、互いの心が開かれているのを実感することができます。

    4月から、日系センターで太極拳の授業を始めさせていただくことになりました。教室は、礼に始まり、礼に終わります。気持ちを込めた礼のやり取り、今から楽しみにしています。

    さて、この挨拶チューの話に結論はありませんが、忠告が一つ。これからもしかして私と出会うことがあるかもしれない方の中で挨拶チューが嫌な方は、私に襲われる前に「やめて!」と叫んでくださいませ。でなきゃ、最低2回はします。ご覚悟!

    About the Author

    Nico

    太極拳インストラクター、カリスマフードアナリスト、コラムニスト、語学教師。一応主婦、1児の母。在外13年、在カナダは4年目。異文化交流の一期一会を、徒然なるままにご紹介してまいります。 フードアナリストのウェブサイト

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