モントリオール交響楽団音楽監督 ケント・ナガノ氏に聞く

Photo: Orchestre symphonique de Montréal
オペラとコンサートの双方で活躍し、明快で優雅、そして知的な指揮者として世界的に名高い。常に新鮮な企画で音楽ファンを楽しませてくれるナガノ氏が、2010年、本拠地モントリオールにて『Les Mystères du Japon』の演奏会を行う。リハーサルの合間、短い休憩時間を割いて、独占インタビューに答えてくれた。(*インタビューはフランス語で行われた。)
『 Les Mystères du Japon』の演奏会を行う目的はなんですか?
東洋と西洋のとても複雑な関係を探究することにあります。日本では、ヨーロッパや北米における詩や文学や音楽等を、異文化として魅力を感じ興味を抱いています。それに相反するように、歴史的な観点となると、ペリー提督が日本に開国を迫って以来、両国の関係は幾度となく緊張した状況を生み出してきました。私たちは、この“不思議”な関係を探究したかったのです。今回のコンサートを“ミステリー”と呼ぶのはそのためです。今回の演奏曲目になっている「Madama Butterfly」は、西洋人が感じた日本に対する概念を知るうえで、まさに代表的な曲だと言えるでしょう。Puccini氏は、日本に行ったことがありませんでした。彼は、この作品のメロディや蝶々夫人という人物を通して、彼自身の日本観を表現したのです。
二つ目に紹介する演奏曲目は、ケベックを拠点として活躍しているカナダ人の作曲家、Chris Paul Harman氏による楽曲「Silver thread among the Gold」です。今回が初演奏になります。これは、新天地を求めてこの地にやってきた日本人の祖先を持つカナダ人が、テーマになっています。
20世紀には、多くの人たちがカナダに移民としてやって来ました。しかしながら、第二次世界大戦では、日本はカナダの敵国となったために、彼らは収容所に拘束されてしまいました。それはアメリカでも同じで、日系二世である私の両親も収容所で育ちました。日本に祖先を持つカナダ人のもうひとつの歴史、それをHarman氏は交響詩によって表現したかったのです。これは私自身にとっても、とても興味深いことです。
三つ目の曲は、「Onna-no-ko no uta」です。主に、19世紀の頃から歌い継がれてきた伝統的な童謡のメロディを取り入れて、フランス人の作曲家Jean-Pascal Beintus氏によって、交響曲としてアレンジされました。
幼少の頃、日本の歌を習いましたか?
いいえ、全くです。私の両親は、既にアメリカで生まれたアメリカ人でした。日本人のようでありながら、アメリカ人としてのアイデンティティを持っていました。祖父母から日本文化の影響を受けながらも、アメリカの文化に融合して育ったのです。もちろん、この2つの異文化を分けることはできません。
私の妻(児玉麻里さん/ピアニスト)が娘に日本の童謡を歌っていましたので、それで多少は覚えました。日本の童謡は、とても美しくとても情趣に溢れています。
四つ目の演奏曲は「飛天遊」です。日本人の作曲家松下功氏が作曲したヨーロッパの交響曲を、和太鼓の演奏家林英哲氏とともにオーケストラによって演奏します。通常コンチェルトは、ピアノ・コンチェルトやバイオリン・コンチェルトですが、今回は和太鼓・コンチェルトです。最もアジア的な楽器を使って西洋の音楽を演奏するのです。
「飛天遊」は、2000年から2006年の間、首席指揮者を務めたベルリン・フィルハーモニーによる“ヴァルトビューネ2000サマーコンサート”でも、林英哲氏の和太鼓とともに演奏され大好評を得ています。
林氏と最初に会ったのは、ベルリン・フィルハーモニーに在籍していた時でした。直ぐに、彼が偉大でカリスマ的な演奏家だと分かりました。日本をテーマにした曲目を決める際に、林氏の和太鼓演奏を知っている団員がいて薦められました。今回は私にとっては、2回目の共演になりますが、9年前の演奏を今でも忘れることができません。
今回の4つの演奏曲目は、それぞれ違った観点から見たアジア(日本)です。世の中の世界観はどんどん小さくなっていますが、西洋と東洋の違いは残っています。二つの距離が近くて遠いということ、それがある意味、答えにも繋がると思います。そして、今回は特に、3月3日の“雛祭の日”に近い日程で演奏会が催せるように調整しました。今回は、女の子が人形で遊ぶ伝統的な歌がたくさんあります。

Photo: Martin Dudemaine
あなたにとって、「日本」とはなんですか?あなたは日系三世にあたりますね?
日系三世といっても、私の立場はとても違います。アメリカでは、日本の家族を持っていませんでした。私の祖父母は既に年老いていましたし、両親、伯父や伯母、従兄弟達・・・・・・、皆アメリカ人です。私にとって、日本文化に触れたのは、妻の家族からでした。そしてもちろん、そのおかげで、私にとって日本はとても重要な国となったのは明らかです。しかしながら、日本への最初の訪問はとても印象深いものでした。
33歳か34歳の頃、ボストン交響楽団で小澤征爾氏のアシスタント・コンダクターをしていた時でした。彼が私を日本に誘ったのです。それまで、私はアメリカとヨーロッパを中心にして学んでいましたので、全く日本に対しての感慨を持っていなかったのです。しかし、どれほど驚いたか想像できますか!それまで、私自身が全く理解出来なかったことが、突然、明解になったのです。
たとえば、話すリズムです。幼少の頃から、学校の友人と話すリズムがちょっと違うのはなぜかわかりませんでした。また、物事に対する考え方とか、動物や物に対する愛着です。日本を訪れて初めて、私と同じリズム、同じ呼吸、同じ社会的価値観を持った文化だと感じました。
あなたが日系人として海外で成功されることは、とても重要なことです。
そうですね。私が、日本人と同じ祖先を持つことは確かです。移民として海外に遣ってきた時点で、それが途切れることはありません。だから、モントリオール、ケベックはとても面白いところです。ここでは祖先から受け継いだ文化が生きています。アメリカは“人種のるつぼ”と呼ばれています。いろんな人種が混ざり合い、以前の形を変えてひとつの文化を作っています。ケベックは“人種のモザイク”と言われていると聞きました。移民がもたらした文化、それぞれがパズルのピースとなって、ひとつの美しい絵を作る。素晴らしいことです。
あなたがOSMの指揮者に就任されて、私も日本人のひとりとして誇りに思っています。
面白い、面白い!(笑)私は日本に行くときは、とても謙虚な気持ちになります。何千年もある日本の歴史を前にすると、私などはほんの小さな人間だと思います。私も、アメリカという国も、なんて若いのだろうと、とても謙虚な気持ちにさせられます。
最後に、モントリオールの日系コミュニティの方々にメッセージをお願いします。
是非、このコンサートにお越しください。今回のテーマを、皆さんと分かち合いたい。日本の素晴らしさを、さまざまな作曲家が表現しています。異文化が共存する楽しさを、一緒に祝福したいと思っています。
Les Mystères du Japon
DATE:
February 28th, 2010: from 13:30
March 2nd, 2010: from 19:00
PLACE:
la Place des Arts (Salle Wilfrid-Pelletier)
514-842-9951 / 1-888-842-9951
www.osm.ca











