Dear Doctor 西川美和監督、笑福亭鶴瓶さん、瑛太さんに聞く

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ニセ医者伊野治役 笑福亭鶴瓶さん、研修医相馬啓介役 瑛太さん、それぞれ選んだ理由は?
西川美和監督(以降、西):相馬役は早くから瑛太さんしかないと決めていました。この役は、瑛太さんが演じるのを頭の中で描いて膨らまして行ったところがあります。それとは反対に、伊野役はなかなか決まりませんでした。何かの道で頂点を極めた人に演じて欲しいという思いがあったのと、私の中で、伊野はつかみ所のない人間で、自分というものがなく、周囲の期待に合わせてどんどん変わってしまうという人物像だったので、演じる役者の個性によって、どうにでも変わっていく役だろうなとも思っていました。台本も、最初は標準語でセリフが書いてあったのですが、鶴瓶さんが演じることが決まった段階で、関西弁のセリフにしようとなり、微妙な言葉のニュアンスは鶴瓶さんにお任せしました。結果的に、鶴瓶さんの個性が見事に伊野の人物像に味と奥行きを持たせてくれたのは良かったです。
演じていて、自分と似ていると思ったところは?
笑福亭鶴瓶さん(以降、鶴):
僕は噺家ですので、本物の俳優かといえば俳優ではない。どこかニセモノが役を演じているという気持ちはあったと思います。せやから、いろいろ考えるよりも、自然体で演じるのが大切なんちゃうかと思うようにしてました。むしろ、人とコミュニケーションを取るのは僕の得意とするところやさかい、直ぐに村のお年寄りとも仲良うなれたし、撮影の合間にお風呂に入れて貰うたり飯を喰べさせて貰うたりしました。そういう面では伊野とどっか共通する部分はあるんちゃうかな。日本では、僕のキャラクターと伊野を被せて見る人もいるやろうけど、僕というニンゲンを知らない外国の人の目に、僕が演じた伊野がどういう風に写るのか興味あるね。
瑛太さん(以降、瑛):
僕自身ではあまり分かりませんが、演じていて違和感はなかったです。この役を通して、いろいろと勉強になりました。

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鶴:彼はごっつう真面目やさかい。ほんま、真剣に役に取り組んでる姿、傍から見ていて偉いと思うわ。ここ1年、飛ぶ鳥を落とす勢いで人気が上昇して大忙しやろうけど、こうやってスケジュール調整して、外国の映画祭に来て舞台挨拶するってことは、瑛太にとってとっても重要な経験だと思うよ。僕はこの映画を4回見てるけど、見るたびに瑛太がよく見えてくわ。
この映画の中で印象に残っている、もしくは一番好きなシーンは?
鶴:伊野と相馬がスイカを食べるシーンですかね。伊野がつい、ぽろっと本音を相馬に吐くいい場面だと思います。
瑛:僕も、2人でスイカを食べるシーンが好きです。
記者:モノを食べながらの演技って難しくないですか?

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瑛:僕は気になる方ですね。他の方が演じているときも注意して見る方です。
鶴:僕は、落語でよく食べる真似をすることがあるさかい、実際に口に入ってなくても、そういう真似をするのは芸のうちなので、うまいことできるんちゃうかな。あと他に僕が印象に残ったのは、八千草薫さん演じる母親と井川遥さん演じる娘が、ちょっと離れて座っている後ろ姿のシーン。2人の親子関係が距離で表現されているし、背中での演技がこれまた上手い!
西:今回、八千草さんは、背中で演じることができる役者さんだと改めて感心させられました。他にも台所に立ちながら、背を向けたまま伊野と会話をするシーンがあるのですが、心の揺れを上手に背中で表現してくれています。
鶴:製薬会社の営業マン役で、香川照之いるでしょ。あいつなんかも、めちゃくちゃおもろいんですよ。診療所に「こんちわー」って入ってくるシーンなんかも、ほんまひょうきんで「ああ、こういう奴、いるいる」って。毎回毎回、笑いながらも感心しっぱなし。
西:香川さんもカメラが回っている間中は、絶対、手を抜かない方ですよね。子供を送り出すちょっとしたシーンなんかも100%で演じてくれました。鶴瓶さん、瑛太さん、看護婦役の余さんの三人が診療所にいる場面も、この3人がいいチームワークで働いているのが画面から伝わってきました。今回は、そういった脇役の方の演技も光ってましたし、エキストラとして参加してくださった村の人たちもいい味出してくれてましたね。
鶴:宴会で実際に踊っているのも、患者になっているお年寄りも、ほとんどみんな村の人やからね。
他にも、ちょっとしたカットが心に残りました。例えば、カーテンが揺れるシーンとかアイスクリームが融けるシーンとか。
西:そうなんです。裏方の人たちみんなが「良い映画を作りたい」という思いで、細部にこだわりを持って製作にあたっていました。映画は、人物の演技だけでなく、モノの動きや変化によって映画の心情を語ることができます。しかしそれも多くは偶然起きた自然の現象ではなく、私たちが綿密に準備を重ねて作る「ウソ」によるところが多い。例えば、カーテンのシーンでは、揺れ具合は、扇風機の風がいいか団扇がいいか、何度もテストを重ねて一番いい揺れ具合を見つけたり、アイスクリームがシンクの中で融けるシーンでは、実際ではあんな早い速度で融けてはくれないので、バーナーで熱した小さな鉄の棒をアイスクリームの下に埋め込んだり、シンクのステンレスを熱湯で温めたりして融ける速度を調節したりしました。みんな結局は、映画を作るのが好きなんですよね。
最後に、人が生きるのに本当に必要なものってなんだと思いますか?
西:人の心って、毎日、変わって行くものだと思います。今日、大切だと思ったものが、明日はまた、違うものに変わるとか。そのとき、そのときで、大切だと思うものを大切にしていけばいいんじゃないかと思います。
鶴:僕は、「順番通りに決めたことをやっていく」というのを大切にしたいね。そうやって、ひとつひとつ決めたことを順番にやっていくことで、例え途中で死ぬことになっても、それはそれで自分で満足できるんじゃないかと思うし。
瑛:僕は、僕を応援してくれている人の期待に応えられるように努力していきたいと思います。また、僕を否定する人には、それを見返せれるようにさらなる努力を惜しまずに生きたいとも思います。
「人間は一面ではないんですよね。そんな複雑なところを描きたいと思っているんです」という西川監督を、“彼女の持つ最強の武器は「男の心理描写」につきる”と絶賛する評論家もいる。見ていて、“好意や善意”が“悪意や偽善”に変わる瞬間に背筋がひやりとした。そうかと思えば、女性ならではの細かいこだわりと視点の優しさ。物事を多方面から見ようとするグローバルな感性に賞賛を送るとともに、今後も大いに期待したい。
鶴瓶さんは、ファンの人たちとの写真撮影に応じたり、エレベーターで乗り合わせた子供や街角で声を掛けてきた地元の人にも気さくに声を掛けたりと、彼がこれまで大切にしてきた「人とのコミュニケーション」を実際に目の当たりにして、改めて鶴瓶さんの持つ人格の偉大さに感動した。
瑛太さんは、画面から受ける印象と違って、朴訥な人柄が意外だった。だから余計に、彼の演技力の高さを改めて実感し、その無限に広がる可能性をずっと応援していきたいと思った。











