食と言ふ事

    モントリオールの部屋の枕元に何冊か日本の文庫本を持ち込んで寝る前などに読んでいるが、中でも北大路魯山人が戦前に記した食に関する随筆が読んでいて興味深い。北大路魯山人は類稀なる美食家であり芸術家であった。

    会員制の料亭・美食倶楽部や星岡茶寮を起こしたのも、晩年に鎌倉に引き篭もって作陶に熱中したのも、全ては「美食」に名を借りた彼自身の究極なる食へのこだわりであった事は有名である。パリの有名三ツ星レストラン「トゥール・ジャルダン」で鴨を食した時、彼は持参した播州龍野の薄口醤油と粉わさびで鴨を食したというのだから凄い。

    私は魯山人に遠く及ばないが、父方は筑後(福岡県南部)の、母方は佐賀の百姓の出なので食べ物を粗末にする事だけは堅く禁じられて育ってきた。嘘をつくな、周りには優しく、時間は守れ、そして食べ物を粗末にするな・・・我が家、否、我が家系では守らねばならぬ不文律だったような気さえする。

    こちらに来て驚くのは食べ物の不味さと、気の毒にも無造作に捨てられていく食べ物の哀れな末路である。

    過日、日本へ帰省したのに利用した航空会社・・本来なら言うべきではないが言ってしまおう。エアカナダである。チキンかビーフの末に出てきた機内食は何の味もしないガチガチのパン、しなびた野菜にお米と大味の噛み切れぬビーフ。それに馬鹿に甘いケーキ。私からすれば食べ物をこれ程までに粗末にするのも珍しいというか、食材に対して申し訳ないとまで思って全く箸を付けなかった。

    カナダへ戻る前に羽田で食事を済ませて、トロント行きの機上の人になった。地球に飢えている民が大勢居て、食べ物やら生活物資が徐々に値上がりする今、殊更に怒りを覚えて、機内では水とお茶しか口にしなかった。

    北米の航空会社、北米に路線を持つ日系の航空会社もそうらしいが、著しく機内食の質が悪いんだそうな。「ごゆっくり、機内でお寛ぎ下さい」と言いながら不味い機内食を客に出し、何だかんだと言いながらチャージを請求する航空会社は犯罪者集団ではないか・・・!!私はそう思う。心の底から本当に。

    こちらに来て何でもが不味いかと言えばそうではない。春のチューリップを見に首都オタワへ行った際に偶然に食べたレバノン料理がえらく気に入ったのである。丁度昼時だったか、皆で有名なホットドッグのスタンドで昼を食べようとなったが、トルコ系ドイツ人のクラスメートがそれは出来ぬと言う。彼女はイスラーム教徒であり、ソーセージの原料である豚肉は不浄の生物で喰らう事は許されていないからだ。でどうしようかと一計を案じていたらレバノン料理が目に留まった。これなら許される、私は彼女の案内で初めてレバノン料理を口にした。ガーリックソースのかかったポテトにチキンサンド。ニンニクの香りを上手くコーラが消して、私としては満足であった。

    きっとカナダの味を思い出す時は、きっとこのレバノン料理のポテトとチキンサンドを思い浮かべるのだろうなと苦笑しつつ、お気に入りの店で顔馴染みになった店員の慣れた手捌きを見ながら、昼時に食べるのである。無論、魯山人までは及ばないが、食べ物に感謝しつつ・・・。しかしカナダで思い出すのがレバノン料理というのも、如何にも移民の国カナダらしくて私は好きだなぁ。

    皆さん、食べ物は大事に頂きましょうね。

    About the Author

    夢屋

    1978(昭和53)年、福岡市生まれ。明治学院大学文学部仏文学科卒。 韓国の海運会社の東京支店に勤めるものの、うつ病を発症して実家がある福岡で療養。韓国の会社にて韓国に関するコラムを連載、韓流に嵌った御婦人方から圧倒的な支持と評価を得る。うつ病治療の一環として海外生活を決断、明治学院の卒業論文でケベックを取り上げたのが縁で去年11月よりモントリオール在住。「本当に住む事になるとは・・」とは本人の弁。博多ラーメンと焼酎とサルサをこよなく愛する九州男児。

    Leave a Reply